演劇は「言葉の力」を育む最高の舞台!元金融マン教師が語る、子どもが輝く学びのカタチ

「うちの子、人前で話すのが苦手で…」 「作文の宿題をいつも嫌がるんです」

保護者の皆さんとお話ししていると、このようなお悩みをよく耳にします。言葉を操る力、すなわち「言葉の力」は、自分の考えを整理し、他者に伝えるために不可欠な能力です。にもかかわらず、多くの学校では、その力をじっくりと育む機会が少ないのが現状です。

そこで、私が教育の現場で力を入れているのが「演劇」を通した教育活動です。

演劇というと、大げさに感じるかもしれませんし、言葉を養うことと結びつかない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、学生時代に演劇に打ち込んだ経験を持つ私にとって、演劇は「楽しい」という感情を起点に、子どもの言葉の力を飛躍的に伸ばす最高のツールだと確信しています。

今回は、私が総合的な学習の時間で実践している演劇活動について、その教育効果や具体的な進め方、そしてご家庭でできるヒントまで、詳しくお伝えしたいと思います。


第1章:「やらされ感」からの脱却〜子どもの「やりたい!」を起点にする教育

小学校のカリキュラムには、「総合的な学習の時間」という、子どもたちが主体的にテーマを探究する時間があります。この時間こそ、演劇を導入する絶好の機会です。

しかし、私が「今年は劇をやるぞ!」と一方的に決めてしまうことはありません。なぜなら、教師がリードしてしまった時点で、子どもたちにとっての学びは「やらされ感」に満ちたものになってしまうからです。子どもたちの主体的な学びを育むためには、まず彼らが「何をやりたいか」を心から話し合うことから始めるべきだと考えています。

もちろん、教師として「劇をやりたい」という個人的な思いはあります。ただ、それを無理に押し付けるのではなく、あくまで選択肢の一つとして提示し、子どもたちが自分たちで話し合い、最終的に「劇をやってみたい!」という結論に至るのを待ちます。

演劇は「目的」か、「手段」か?

「総合的な学習の時間は、まず目的を決めるのが大事で、劇はあくまで手段だ」と指摘する専門家もいます。その通りです。

しかし、私は「まずは『やりたいこと』から入ってもいい」と考えています。子どもたちは、演劇という「手段」を選んだ後でも、必ず自分たちで「じゃあ、この劇で何を伝えたいの?」という問いにたどり着きます。ここからが、本当の探究学習の始まりです。

  • 「何がしたい?」 → 演劇!
  • 「じゃあ、何を伝えたい?」 → 〇〇について!
  • 「そのためには何を調べたらいい?」 → …

このプロセスを通して、子どもたちは自らの内側から目的意識を生み出していきます。教師は、そのプロセスを「邪魔しない」ことこそが、最も重要な役割なのです。

第2章:子どもの言葉を紡ぐ「作家の時間」

演劇をすることが決まったら、次に取り組むのは「台本づくり」です。

一般的には、先生が用意した既存の台本を使うことが多いかもしれません。しかし、それでは子どもたちの主体性は育まれません。私は子どもたちに、「台本はみんなで考えよう」と投げかけます。すると、ほとんどの子どもたちは「自分たちで作りたい!」と目を輝かせます。

台本作りは一見、大変そうに見えますが、ここでも子どもたちの創造力は存分に発揮されます。

作家の時間で台本を作る

私は、この台本作りにも、以前ブログでお話しした「作家の時間」を取り入れています。まず、みんなでテーマについて話し合い、その後、一人ひとりが自分の考えるストーリーやセリフ、登場人物のアイデアを自由に書き出していくのです。

  • 「この場面は、こういうセリフにしたい!」
  • 「この登場人物は、もっとこんな性格にしたい!」
  • 「こんなユニークなストーリーはどうだろう?」

子どもたちの個性と想像力が爆発し、ユニークで創造性あふれる台本が次々と生まれてきます。

これらの台本をみんなで読み合い、意見を交換する時間は、とても貴重です。友達が一生懸命作った台本を読むことで、「読む力」が養われるのはもちろんのこと、他者の考えや物語に触れることで、共感力や表現力が育まれます。

AIを最大限に活用した台本づくり

「たくさんの台本をどうやってまとめるの?」

そう思われるかもしれません。そこで、今、私はAIを積極的に活用しています。

子どもたちのアイデアをすべて集約するのは、非常に労力のかかる作業です。そこで、子どもたちが書いた台本やアイデアをAIにプロンプトとして入力すると、AIがそれらをうまく組み合わせて、台本の「たたき台」を作ってくれるのです。

  • セリフの調整: 複数の台本に書かれたセリフを、物語の進行に合わせて自然な会話に整える。
  • ト書きの作成: 登場人物の動きや表情、場面の状況など、詳細な「ト書き」をAIが提案してくれる。
  • ストーリー構成の補助: 複数のアイデアを基に、より論理的で魅力的なストーリー構成をAIが提案する。

もちろん、AIが作った台本が完成形ではありません。この「たたき台」を基に、子どもたちがさらに話し合い、修正を重ねることで、自分たちの想いが詰まったオリジナルの台本が完成します。AIは、あくまで子どもたちの創造性を引き出し、実現をサポートする頼もしい存在なのです。


第3章:表現の壁を壊す「インプロゲーム」の魔法

台本が完成したら、いよいよ劇の練習が始まります。

しかし、多くの子どもたちは、人前で表現することに恥ずかしさを感じたり、自分の感情をうまく表現できなかったりします。そこで、私が練習の前に必ず取り入れているのが「インプロゲーム(即興演劇)」です。

インプロゲームは、台本を使わず、瞬時に状況を判断し、言葉や動きで表現する遊びです。例えば、「マジックボックス」というゲームでは、架空の箱の中に何が入っているか、即興で表現するものです。

インプロゲームがもたらす教育効果

インプロゲームは、以下のような点で子どもたちの力を飛躍的に伸ばします。

  • 瞬発力と思考力: 瞬時に状況を判断し、言葉や行動で反応する必要があるため、思考力と瞬発力が鍛えられます。
  • コミュニケーション能力: 相手の言葉や動きに注意を払い、即興で応えることで、話す力と聞く力が同時に養われます。
  • 表現の楽しさと安心感: 即興なので、上手いも下手もありません。みんなでたくさん笑い合いながら、自分の個性をありのまま表現する楽しさを味わえます。
  • 心の解放: 演劇の練習は「失敗しても大丈夫」という安心・安全な場であることが何よりも重要です。インプロゲームは、その場の雰囲気を和ませ、自分を表現することに対する心の壁を壊し、心が解放されていく感覚を子どもたちに与えます。

インプロゲームは、子どもたちが演劇を「楽しい!」と感じ、もっとやってみたいと思うための最高の導入です。インプロゲームの具体的なアイデアは、インプロゲームの一覧 – 特定非営利活動法人まねきねこのようなウェブサイトでたくさん紹介されていますので、ぜひご家庭でも試してみてください。

第4章:演劇が育む「非認知能力」と多様な才能

演劇の魅力は、言葉の力だけでなく、今後のAI時代にますます重要になると言われている「非認知能力」を育む点にもあります。

主体性と協調性の両立

子どもたちは「もっと良い劇にしたい」という強い思いを持つと、教師が何も言わなくても、自分たちで話し合い、改善を始めます。

  • 「この場面、もっと声を出したほうが伝わるよ!」
  • 「セリフの言い方を変えてみない?」
  • 「観客席に向かって話した方がいいんじゃない?」

このように、仲間と協力しながら、より良いものを目指すプロセスを通して、子どもたちは主体性と協調性の両方を身につけていきます。

多様な個性が輝く場

演劇は、テストの点数では測れない、子どもたちの様々な才能が輝く舞台です。

  • 歌やダンス: 劇中に歌やダンスを取り入れることで、歌が得意な子、ダンスが好きな子が主役として輝きます。
  • 道具や小道具: 劇の世界観を作る大道具や小道具は、図工や工作が得意な子の腕の見せ所です。
  • 照明や音響: 舞台の雰囲気を演出する照明や音響は、機械いじりが好きな子や、繊細な感覚を持つ子の才能が発揮されます。

演劇は、「みんなが同じことをする」のではなく、「それぞれの個性を持ち寄って、一つのものを作り上げる」活動です。子どもたちは、自分とは異なる才能を持った仲間を認め、尊敬する心を育んでいきます。


第5章:家庭でできる「言葉の力」を育むヒント

学校で演劇をすることには大きな教育効果がありますが、「家庭で実際に劇をやるのは難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか。大切なのは「演劇という行為」そのものではなく、その背景にある「言葉の力」を育むためのエッセンスを、日常に取り入れることです。そのためには小説や物語を読んだ後、お子さんと感想を話し合う読書会をおすすめします。その際、単なるあらすじだけでなく、次のような一歩踏み込んだ会話をしてみましょう。

  • ト書きを想像する: 「このセリフ、どんな表情で言っていたと思う?」「この場面、どんな音が聞こえてきそう?」といった問いかけをすることで、お子さんは情景描写や登場人物の感情を深く読み解く力を身につけます。
  • 意見を交換する: お子さんが読んだ本について、親子で感想を言い合う時間を設けてみてください。お互いの解釈や感じ方の違いを知ることは、多様な価値観に触れる貴重な機会となります。

終わりに

AIが発展し、知識の獲得が容易になった現代だからこそ、主体的に考え、協調性を持ち、自分を表現する「非認知能力」が、ますます重要になってきます。

演劇は、子どもたちが楽しみながら、それらの力を総合的に育むことができる教育活動です。私自身、いつか小学校教員を退職したら、こうした演劇をベースにしたワークショップを開催してみたいという夢があります。

皆さんにとって、この記事が、お子さんとの新しい学びのヒントになれば幸いです。もしご意見やご感想などございましたら、ぜひお聞かせください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました