前回は読解力の土台となる「語彙力」を増やす多読術についてお伝えしました。今回は、さらに一歩進んで、「論説文」の読解力に焦点を当てていきたいと思います。論説文は、筆者の主張とそれを支える根拠で構成されており、正確に読み解く力は、思考力や表現力を育む上で非常に重要です。
ここでは、論説文が苦手なお子さんや、これから本格的に読解力をつけたいと考えている方向けに、**「論説文を読み解くための基礎」**を小学校で教える内容も踏まえながら、具体的に解説していきます。
論説文の種類と文章構造
まず、文章には大きく分けていくつかの種類があります。
- 説明文: 何か物事を客観的に説明する文章。説明文の中でも次のような種類があります。
- 解説文:特定の物事について解説、説明する文章(例:教科書、説明書)
- 論説文: 特定の主張(意見)があり、その根拠を提示しながら論を進める文章(例:小論文、社説)。
- 記録文: 物事を時系列に記録する文章(例:観察記録文)。
- 物語文: 登場人物がいて、感情やドラマが描かれる文章(例:小説)。
- 随筆文: 筆者の考えや感想を自由に綴る文章(例:エッセイ)。
今回は、特に**「論説文」**に絞って読解のポイントをお伝えします。
論説文の基本的な文章構造:「はじめ・中・終わり」
論説文は、ほとんどの場合、**「はじめ(序論)」「中(本論)」「終わり(結論)」**という3つのパートで構成されています。
- はじめ(序論): 文章の導入部分。テーマの提示や、筆者の最も伝えたいこと(主張・結論)が述べられることが多いです。
- 中(本論): 筆者の主張を支えるための根拠や具体例、詳細な説明が展開されます。
- 終わり(結論): 本論で述べた根拠を踏まえ、改めて筆者の主張やまとめが述べられます。
この構造を理解するだけで、漫然と読むのではなく、「どこに筆者の言いたいことが書いてあるか」という見当がつけやすくなります。
論説文の3つのタイプ(特に注目すべきは「双括文」)
さらに、論説文には主張の提示の仕方によって、大きく3つのタイプがあります。
- 頭括型(とうかつがた): 最初に主張(結論)を述べ、その後に根拠を展開していくタイプ。
- 尾括型(びかつがた): 最初に根拠を展開し、最後に主張(結論)を述べるタイプ。
- 双括型(そうかつがた): はじめ(序論)と終わり(結論)の両方で主張を述べるタイプ。
お子さんに教える際はこの3タイプを伝えますが、ほとんどの論説文は「双括型」になっていることが多いという点を強調して伝えると良いでしょう。つまり、筆者の最も伝えたいことは、最初の段落と最後の段落に書かれていることが多い、ということです。これを意識するだけでも、読解の効率は格段に上がります。
論説文を読み解く基礎編:3つのステップ
文章構造を理解した上で、いよいよ具体的な読解ステップに入りましょう。私が子どもたちに教える際、まず一番最初にさせるのは以下の3つのステップです。
ステップ1:まず「要旨」をつかむ(一番重要!)
論説文において最も重要なのは、**「筆者が最も伝えたいこと(要旨)」**を正確に把握することです。これが分からなければ、本当に文章を読んだとは言えません。
- 要旨を短くまとめる練習: 最初に文章を読んだら、「この文章は何について、筆者は何を伝えたいのか?」を、例えば「20文字でまとめてごらん」といった課題を与えます。
- 20文字程度だと、本当に核心だけを抽出する力。
- 50文字程度だと、少し補足的な情報や主要な根拠も入れられる力。
- 100文字程度だと、要旨と主要な根拠・事例をまとめる力。 このように、文字数によって要約の難易度が変わることを教えるのも良いでしょう。
- 「何について書かれた文章か」を把握する: 論説文の読解が苦手なお子さんは、「そもそも何について書かれている文章なのか」を把握するのが苦手なケースが多いです。これは、語彙力不足や、文章構造が分からないことが主な原因です。
- 対処法: 「筆者が言いたいことは、はじめと終わりの部分に書いてあることが多いよ」と教え、まずはその部分を探させます。そして、見つけたら「そうだね、ここが筆者の伝えたいことだね」と一緒に確認してあげることが大切です。
- 苦手な子へのサポート: あまりにも苦手意識が強い場合は、最初は**「要旨を教えてあげる」**のも一つの手です。無理に自分で見つけさせようとすると、嫌になってしまう可能性があります。まずは「これが筆者の言いたいことなんだよ」と示し、それを踏まえて文章を読むことで、「分かった!」という成功体験を積ませてあげましょう。
- 「問い」に注目する: 問いから始まる論説文も多くあります。「〇〇とは何か?」という問いがあれば、その答えが筆者の主張(要旨)につながることが多いため、問いと答えを見つける意識も有効です。
ステップ2:筆者の根拠の「数」と「展開」を把握する
要旨をつかんだら、次に「筆者の主張を支える根拠はいくつあるか?」を数えるように促します。これは、文章全体の理解度を深める上で非常に重要な作業です。
- 「中(本論)」に注目する: 根拠は「はじめ・中・終わり」の「中」の部分に書かれていることがほとんどです。子どもたちに、その部分を集中して読むように促しましょう。
- 接続詞の働きを理解する: 根拠を読み解く上で、接続詞は文章の「道しるべ」となります。接続詞がどのように使われているかに注目することで、筆者がどのように論を進めているかを把握できます。
- 順接: 「だから」「したがって」「そのため」など。前の文の内容を受けて、論理的に続くことを示します。
- 逆接: 「しかし」「だが」「ところが」など。前の文の内容とは反対の展開や、反論が続くことを示します。
- 並列・追加: 「また」「そして」「さらに」など。同等の内容を並べたり、情報を付け加えたりします。
- 例示: 「例えば」「具体的には」など。抽象的な説明に具体的な事例を加えることを示します。
- 転換: 「さて」「ところで」など。話題が変わることを示します。 これらの接続詞を意識することで、「今筆者は根拠を追加しているな」「ここで反論を提示して、それを打ち消すような次の主張をするな」といった、論の展開を先読みする力が養われます。
- 段落のまとまりに注目する: 段落は、意味のまとまりが変わるごとに変わります。小学校では形式段落(字下げの部分)に番号を振る練習をよく行いますが、それと同時に「意味段落」(内容のまとまり)を意識させることが重要です。
- 形式段落の番号を振りながら、「この段落では、どんなことが書かれているかな?」「この段落は、前の段落とどうつながっているかな?」と問いかけることで、各段落が持つ役割や、根拠と根拠のつながりを理解しやすくなります。
- 「筆者の根拠は、第2段落、第4段落、第6段落に書かれているな」というように、段落に着目することで、根拠を見つけやすくなります。
ステップ3:段落ごとの「要約」に挑戦する
要旨を把握し、根拠の数と展開を意識しながら読み進めたら、次に**「要約する力」**をつけましょう。これは、長い文章を短くまとめる力であり、読解力を高める上で非常に効果的なトレーニングです。
- 段落ごとの要約から始める: 最初から文章全体を要約するのは難しいので、まずは「一つの段落に何が書かれているか」を要約する練習から始めます。
- 重要語句に線を引く: 小学校の指導法でもよく行われますが、まずその段落の中で「一番大事な言葉」に線を引かせます。
- 言葉を付け加えて文章化する: 線を引いた重要語句を元に、言葉を少し付け加えながら、その段落の要約文を作成します。簡単な文章であれば、抜き出すだけで要約になることもありますし、少し整理が必要な場合もあります。
- AIを「要約の先生」として活用する: AIに段落を読み込ませ、「この段落を50字で要約してください」と指示してみましょう。AIが作成した要約文と自分の要約文を比較することで、「要約のコツ」を効率的に学ぶことができます。
「文章構造図」で論説文を可視化する
これらのステップを繰り返していくと、最終的には頭の中で**「文章構造図」**が描けるようになってきます。
- はじめ: 筆者の主張(要旨)
- 中: 根拠1、根拠2、根拠3…(それぞれの内容や具体例)
- 終わり: 再度の主張(まとめ)
このような図を実際に書かせたり、頭の中でイメージさせたりすることで、論説文の全体像が掴めるようになります。これは、筆者が文章を書く前に、おそらく頭の中で構成していたであろう「設計図」を読み解く力に他なりません。この際も、AIを活用して文章構造図をAIに書かせて自分の文章構造図と比較するといったやり方もあります。
近道はないが、効率的な道はある
読解力向上に「近道」はありません。野球やサッカーの練習と同じで、ドリブルやバッティングの仕方を教わっただけでは上手くならないように、繰り返し文章を読み込む「多読」は不可欠です。
しかし、闇雲に読むのではなく、今回お伝えしたような「論説文の構造」「要旨の捉え方」「接続詞や段落への注目」「要約」といった基礎と基本をしっかり理解し、効率的な方法で読み解いていくことで、その効果は大きく変わってきます。
この基礎編を習得することで、論説文に対する苦手意識が減り、「読める!」「理解できる!」という成功体験を積み重ねることができます。これが、子どもたちが読書や学習に積極的に取り組むための、何よりの原動力となるでしょう。
次回予告:論説文読解「応用編」へ
今回は、論説文の読み方における基礎的なポイントをお伝えしました。次回は、さらに複雑な論説文を読み解くための**「応用編」**として、以下の3つの構造に焦点を当てて解説していきます。
- 対比構造: 異なる二つの事柄を比較して論じる方法。
- 具体と抽象の構造: 抽象的な概念と具体的な事例を行き来する論の展開。
- 関連の構造: 段落同士や主張と根拠がどのように結びついているか。
これらの視点を加えることで、より深く、多角的に論説文を読み解く力が身につくはずです。
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