【連載】「書くことが好きになる」作家の時間 教室実践記③~書き出し編

いつもブログをお読みいただきありがとうございます。 このブログでは、ご家庭で日々お子さんの教育と向き合っていらっしゃる保護者の方に、少しでもお役に立てる情報を発信しています。

前回のブログでは、小学校の授業実践として、子どもの「書きたい!」という意欲を自然に引き出すための、ユニークな実践方法をご紹介しました。

さて、子どもたちが物語や作文を書き始める時、最初の「書き出し」でつまずいてしまうことはありませんか? 「何から書いたらいいか分からない」 「どうすれば面白く書き始められるの?」

今日のテーマは、私が小学校の国語の授業で実際に行っている「魅力的な書き出しのミニレッスン」です。このレッスンは、子どもたちの作文力を飛躍的に向上させるだけでなく、日々のコミュニケーションにも応用できると思います。

なぜ、子どもの作文は書き出しでつまずくのか?

授業中、子どもたちから「先生、何から書いたらいい?」と聞かれることはよくあります。これは、子どもたちが以下のような理由で書き出しに戸惑っているからです。

1. 読者の存在を意識できないから

私たちは、誰かに何かを伝えるために文章を書きます。しかし、子どもたちにとっての「作文」は、「誰に読んでもらいたいか」という読者の存在を意識しにくいものです。

  • 「読者はどんなことを知りたいかな?」
  • 「どう書けば、読者が面白がってくれるかな?」

こうした視点が抜けていると、書き出しは単なる形式的な挨拶になってしまいがちです。

2. 自分ごとだと感じられないから

子どもたちに「今日の出来事を書きましょう」と投げかけるだけでは、書くことへの意欲が湧きにくいことがあります。自分にとってどうでもいい出来事は、他人に伝えるモチベーションも生まれません。

しかし、自分の心に強く残ったこと、感情が動いたことを書くときは、自然と筆が進みます。書き出しでは、読者が「これは面白そうだ」と自分ごととして捉えられるような仕掛けが必要になります。

3. 続きを読みたくなるワクワク感がないから

子どもたちは、自分が書いた文章が誰かに読まれることを喜びます。しかし、書き出しが単調だと、その先を読んでもらうことが難しくなります。

「この続きはどうなるんだろう?」 「え、そんなことがあったの?」

読者にそう思わせるような、驚きや発見、共感を与えることが、子どもの「書く」喜びへと繋がります。

【実践編】子どもの「書く意欲」を育む書き出し8選

ここからは、私が国語の授業で子どもたちに教えている、作文の書き出しの型を8つご紹介します。これらの型を教えることで、子どもたちは「何を書いたらいいか分からない」という壁を乗り越え、自分らしい表現方法を見つけられるようになります。ご家庭でもぜひ試してみてください。

1. 会話文から始める「登場人物の声」型

物語や体験談の書き出しで最も効果的なのが、会話文から始める方法です。

  • 自分の声から始める
    • 【例】
      • 「やばい!」先生がガラッとドアを開けた瞬間、僕たちは叫んでいた。
      • 「やったー!」僕は思わず叫んだ。テストで100点を取った瞬間だった。
    • 【効果】 主人公の感情がストレートに伝わり、読者は何が起こったのか知りたくなります。
  • 他人の声から始める
    • 【例】
      • 「ほら、早く起きなさい!」というママの声が聞こえてきた。
      • 「絶対に諦めるな!」コーチの厳しい声が、僕の背中を押した。
    • 【効果】 主人公が置かれた状況を、読者に間接的に想像させることができます。
  • 二人の会話から始める
    • 【例】
      • 「ねえ、これ本当に美味しいね」「うん、また明日も来たいな」そんな他愛ない会話から、僕たちの冒険は始まった。
      • 「ねえ、今日一緒に遊ぼうよ」「いいよ!何して遊ぶ?」僕たちは明日からの夏休みを想像してワクワクしていた。
    • 【効果】 登場人物の関係性や、これから始まる出来事への期待感を高めます。

2. 音から始める「臨場感」型

「ドカーン!」「ヒューヒュー!」など、音から書き始めることで、読者はその情景を五感で感じることができます。

  • 【例】
    • ドカーン!玄関で大きな音がした。何かが倒れたような音だった。
    • ヒューヒュー。あまりの風の強さに、僕らは飛ばされそうになった。
  • 【効果】 読者を物語の世界に一瞬で引き込み、臨場感を演出します。

3. 主張から始める「断言」型

自分の意見を冒頭でズバッと断言することで、読者は「なぜそう思うんだろう?」と興味を持ち、読み進めます。

  • 【例】
    • いじめは絶対に許せない。私はそう断言します。
    • ぼくは、大人になったら絶対に宇宙飛行士になりたい。
  • 【効果】 文章のテーマを明確にし、筆者の強い意志を伝えます。

4. 疑問文から始める「問いかけ」型

読者に直接問いかけることで、思考を促し、自分ごととして文章を読んでもらうことができます。

  • 【例】
    • みなさんは、いじめが正しいと思いますか?
    • みなさんは、将来の夢はありますか?
  • 【効果】 読者との間に双方向のコミュニケーションを作り出し、文章への参加意識を高めます。

5. 告白から始める「秘密の共有」型

読者に秘密を打ち明けるように書くことで、親近感や共感を得られます。

  • 【例】
    • 実は、僕も小学校三年生のときにいじめられていたことがあります。
    • 実は、僕は人見知りで、新しいクラスになかなか馴染めませんでした。
  • 【効果】 読者は「この人も同じなんだ」と感じ、共感と信頼が生まれます。

6. たとえから始める「比喩」型

比喩を使うことで、難しい内容や抽象的な感情を、読者が具体的にイメージしやすくなります。

  • 【例】
    • 赤鬼のように怒ったお母さんが、こちらに走ってきた。
    • まるで魔法のように、絵の具の色が混ざり合って新しい色になった。
  • 【効果】 読者の想像力を刺激し、文章に彩りを与えます。

7. 気づきや発見から始める「サプライズ」型

「ついに発見しました!」「僕は気づいたんだ」など、冒頭で驚きや発見を提示することで、読者は「何を発見したんだろう?」とワクワクして読み進めます。

  • 【例】
    • 僕はついに、朝寝坊しない方法を発見しました。それは…。
    • 僕は、カブトムシが夜にしか活動しない本当の理由に気づいたんだ。
  • 【効果】 読者の好奇心を刺激し、記事の期待感を高めます。

8. 場面から始める「情景描写」型

物語の特定の場面や情景を切り取って描写することで、読者はその世界観に引き込まれます。

  • 【例】
    • 熱が下がった、あの日の夜のことでした。
    • 朝焼けの空が、僕の心臓のドキドキと同じ色に輝いていた。
  • 【効果】 読者の想像力を掻き立て、物語の導入として非常に効果的です。

【応用編】さらに読者を引き込む5つのテクニック

基本のテンプレートをマスターしたら、さらに読者の心を掴むための応用テクニックを試してみましょう。

1. 読者の心理を突く「PASONAの法則」

これはマーケティングでよく使われる文章術ですが、子どもの文章指導にも非常に有効です。読者の心理を段階的に刺激し、行動へと繋げます。

  • P (Problem/問題提起): 読者が抱える問題や悩みを明確に提示します。
  • A (Affinity/共感): 読者の痛みに共感し、「私もそうでした」と寄り添います。
  • S (Solution/解決策): その問題を解決できる方法(この記事の内容)を提示します。
  • O (Offer/提案): 解決策を具体的に提案し、読むメリットを強調します。
  • N (Narrowing Down/絞り込み): 行動しないリスクや、今すぐやるべき理由を提示し、読者を絞り込みます。
  • A (Action/行動): 最後に、具体的な行動を促します。

【具体例】

PASONAの法則を使った作文例

ここでは、作文が苦手な子を主人公にして、PASONAの法則を当てはめて書いた作文の例を紹介します。

P (Problem/問題提起) 作文が苦手で、先生に「今日の出来事を書いてみよう」と言われても、何から書いたらいいか分からなくて、いつも困っています。

A (Affinity/共感) となりの席のぼくは、いつもすらすらと書いていてすごいなと思うけれど、ぼくは考えれば考えるほど、頭の中がまっしろになってしまいます。

S (Solution/解決策) でもある日、お兄ちゃんが「作文には魔法の書き出しがあるんだよ」と教えてくれました。

O (Offer/提案) その魔法の書き出しを試してみたら、作文を書くのがどんどん楽しくなってきたんです。

N (Narrowing Down/絞り込み) もしこの魔法の書き出しを知らなかったら、ぼくは夏休みの思い出をぜんぜん書けなかったと思います。

A (Action/行動) 今から、ぼくが書いた作文を読んでみてください!そして、あなたもこの魔法を使ってみてね。

物語と説明文、それぞれの書き出しのコツ

ここまで様々な書き出しのテクニックをご紹介しましたが、書く文章の種類によって、適した書き出しは異なります。

物語・随筆(エッセイ)の場合

  • 読者の感情に訴えかけることを第一に考える。
  • 会話文、音、情景描写、告白など、読者がその世界に入り込めるような手法が効果的です。
  • 「いつ、どこで、誰が、何をした」を明確にすることで、読者は物語の輪郭を掴みやすくなります。
  • 結論やオチをいきなり書かない。 読者の「この先どうなるんだろう?」という期待感を高めるように書くことが重要です。

論説文・説明文の場合

  • 読者の疑問や悩みを解決することを第一に考える。
  • 問いかけ、主張、結論ファースト、数字やデータなど、理性的で説得力のある手法が効果的です。

まとめ:書き出しは読者との最初の対話

作文の書き出しは、「書くのが難しいから、とりあえず書く」部分ではありません。それは、「読み手に『読んでみたい!』と思わせるための最も重要な部分」です。

これは、まるで人と人との最初の対話と同じです。第一印象が、その後の関係性を大きく左右します。

子どもたちに、共感、発見、そして書くことの楽しさを、最初の数行に凝縮して伝えることができれば、必ず彼らの心は動き、「書くって楽しい!」と感じてくれるはずです。

今回ご紹介したテンプレートを参考に、ぜひお子さんとの「書く」時間を楽しんでみてください。その小さな一歩が、きっとお子さんの「書く力」を育む大きな一歩になるはずです。

さあ、今日からさっそく、お子さんと一緒に書き出しの魔法を試してみませんか?

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