【連載】「書くことが好きになる」作家の時間 教室実践記①~作家の時間とは?

こんにちは!今日のブログでは、アメリカの教育現場で「ライティングワークショップ」として親しまれている「作家の時間」について、私が実際に教室でどのように実践しているか、その具体的な方法をお話ししたいと思います。この連載を通して、子どもたちが「書くことって楽しい!」と感じ、自らの言葉の力を育んでいく過程を、皆さんにもお届けできればと思っています。


「作家の時間」とは何か?

「作家の時間」を端的に言えば、子どもたち一人ひとりが、自分でテーマを選び、好きな文章を自由に書くという学習法です。

今の学校教育では、国語の授業で「教科書に載っている文章を読んで、それに基づいて文章を書いてみよう」といった、テーマやジャンルが決められている学習が一般的です。例えば、説明文の力をつけるために、まずお手本となる文章を読み、その構成や表現方法を学んでから、同じようなテーマで書くという流れが多いでしょう。

このような学習方法には、もちろんメリットがあります。みんなで同じテーマに取り組むことで、互いの文章を参考にしやすかったり、仲間と同じ目標に向かうことでモチベーションが生まれたりします。しかし、この方法には大きなデメリットも潜んでいます。それは、子どもたちの「書きたい!」という内なる思いが、乗りにくいという点です。

真面目に先生の指示に従って学習を進める子もいますが、私自身もそうですが、「やらされる」ことに対しては、なかなか意欲が湧きにくいものです。子どもたちは一人ひとり個性があり、興味を持つことも違います。だからこそ、自分の心から湧き上がる「書きたい!」という気持ちを大切にすることが、何よりも重要だと私は考えています。

「自由」が育む主体性と「責任」

「作家の時間」では、子どもたちは「自分で選んで、書きたいものを書く」という自由を与えられます。この自由が、子どもたちの主体性を大きく育んでいきます。「俺、書きたいこと書いていいんだ!」という発見は、子どもたちにとって大きな喜びであり、学習への原動力となります。

同時に、自分の行動には責任が伴うという大切な学びも得られます。自分で書くテーマを選び、自分の力で文章を完成させることは、自分の行動に責任を持つということです。自由と責任は表裏一体であり、この「作家の時間」は、子どもたちにその原則を体感させる貴重な機会となります。


予想外のハードル:自由だからこそ難しい

しかし、「はい、じゃあ書いて!」とだけ言って、子どもたちがすぐにスラスラと書き始められるわけではありません。むしろ、「作家の時間」は、学習のスタイルとしては決して簡単なものではありません。もし子どもたちがみんな、与えられたテーマで迷わず書けるのであれば、そもそも教師の仕事は必要ないでしょう。

初めて「作家の時間」を導入する際には、子どもたちと「『作家の時間』って何だろう?」と徹底的に話し合うことから始めます。なぜなら、多くの子どもたちはこれまで、教科書に沿って進む授業ばかりを経験しているため、「自由に書いていい」と言われると、かえって戸惑ってしまうからです。

「何を書いていいか教えてくれないの?」「それで本当に勉強になるの?」 「どうやって力がついたか確かめるの?」 「テストはどうするの?」「評価はどうするの?」

このような疑問は、子どもたちだけでなく、保護者や他の教員からもよく聞かれます。自由に書かせることは良いけれど、評価が難しいため、「私にはできない」と尻込みしてしまう先生も少なくありません。

それでも、私たちが教師として心から見たいのは、子どもたちの「面白い!」「もっとやりたい!」という輝く姿です。そして、「作家の時間」は、ほとんどの子どもたちが「やった!」と歓声を上げるほど、本当に楽しみにしてくれる時間なのです。

だからこそ、教師には「必要なサポート」が求められます。このサポートは、一人ひとりの子どもによって異なります。題材選びに悩む子、表現方法に悩む子、話の展開に悩む子、書き出しが思いつかない子、原稿用紙の使い方に戸惑う子…。選択肢が無限に広がる分、教師には幅広い対応力が求められるのです。

ご家庭で取り組む場合は、お子さんに1対1で寄り添う「伴走者」としてサポートすれば良いでしょう。それでも、お忙しい中でつきっきりで指導するのは難しいと思います。そこで、私がどのように子どもたちをサポートしているか、その具体的な方法を皆さんにお伝えします。


誰もが「書けた!」と感じる最初の授業

私が「作家の時間」で最初に行うのは、「みんなが書けるんだよ」ということを実感してもらう授業です。この段階では、文章の出来不出来を細かく評価するのではなく、「自分にも書けた!」という達成感と「書くって楽しいな」という喜びを何よりも大切にしています。

1. 観察文から始める「書く」の第一歩

まず、「見たことをそのまま文章に書く」という活動を行います。

教室に先生(私)が入り、トコトコと歩き、みんなの方を向いて「おはようございます」と一言。そして黒板消しを持って黒板を消す。たった20秒ほどの出来事です。この20秒間に起こったことを、見たまま文章に書いてもらうのです。

この課題は、ほとんどの子どもがクリアできます。「〇〇先生が教室に入ってきて、みんなの方を向いて『おはようございます』と言った。それから先生は黒板消しを持って黒板を消した。」これだけで十分です。「この通りに書けたら満点だよ!」と伝え、子どもたちの不安を取り除きます。

2. 褒めて、伸ばす。表現の工夫と想像力の芽

しかし、中には最初から表現に工夫を凝らす子がいます。

例えば、「ガラガラガラと音を立てて〇〇先生が入ってきた。先生は緊張した表情で、カツカツカツと教壇まで歩いていった。」のように、音や様子を具体的に表現する子。あるいは、「先生は朝、奥さんと喧嘩したのかな…?」のように、見た事実から想像を膨らませて書く子も現れます。

これらの「工夫」や「想像」を見つけたら、私は徹底的に褒めます。 「〇〇さんの文章、すごい!『ガラガラガラ』っていう音を入れるだけで、先生が入ってきた様子が目に浮かぶようだね!」「〇〇さんの文章には、先生の気持ちまで書かれているね!とても面白い物語になりそうだ!」

このように、全体で紹介し、積極的に褒めることで、子どもたちの「書くって楽しい」「もっと工夫してみたい」という気持ちを刺激していきます。

3. 友達の姿から学ぶ「レベルアップ」の喜び

次に、先生の代わりにムードメーカー的な子どもが教室に入ってきて、20秒間何かをしてもらうという活動をします。子どもたちは、友達がどんな動きをするか、どんな表情をするか、興味津々で観察します。そして、もう一度文章を書いてもらうと、1回目よりもはるかに熱心に取り組み始めます。

ここで大切なのは、1回目から2回目で「レベルアップ」している子を見つけることです。

「みんな、〇〇さんの文章を見て!1回目はシンプルな文章だったのに、今回はこんなに詳しく書けているよ!自分が想像したことや、友達の面白かった動きが加わっている。素晴らしいね!」

このフィードバックによって、子どもたちは「自分もやればできる」という自信と、「書くのが上手になった」という成長を実感できます。友達の工夫を知ることで、「次はこんな風に書いてみよう」と、新たな目標も見つけられます。

4. 誰かに読んでもらう喜び:交流と共有

最後に、自分が書いた文章を友達同士で読み合う「交流・共有」の時間を設けます。

自分が一生懸命書いた文章を誰かに読んでもらい、「面白いね」「すごいね」と言ってもらう経験は、子どもたちにとって大きな喜びです。教師に褒められるだけでなく、友達に認められることは、「もっと書いてみたい!」という内なるモチベーションを強く引き出してくれます。

次のステップ:物語の創作へ

これらの活動を通して、子どもたちは「書く」ことの楽しさを知り、自信を深めていきます。そうすると、自然に次の段階に進む子が現れます。

例えば、最初に書いた先生の様子から、「実は奥さんと喧嘩をした原因は…」のように、想像を膨らませて独自の物語を創作する子が必ず出てきます。そのような子を見つけたら、「こんな面白い物語ができそうだよ!」と全体で共有します。すると、「俺も物語を書いてみたい」「自分にも書けそうだ」と、子どもたちの中から自発的に意欲が湧き上がってくるのです。

「じゃあ、次の時間はみんなで物語を書いてみようか!」

この流れこそが、「作家の時間」の醍醐味です。もちろん、物語を書く前には、また別の手立てが必要になります。そうした具体的な指導法については、次回の連載で詳しくお伝えしたいと思います。


作家の時間は、子どもたちが「書く」ことを心から楽しみ、自分の成長を感じ、そして笑顔になれる、そんな可能性に満ちた授業です。

皆さんも、ぜひご家庭でできる範囲で、この実践を真似してみてはいかがでしょうか。

次回は、さらに一歩踏み込んで、「書きたい」気持ちを具体的な物語の創作へとつなげるための手立てについてお話しします。どうぞお楽しみに!

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