読解力向上への道①:語彙力編

皆さん、こんにちは。お子さんの読解力について、「どうすればもっと上がるのだろう?」とお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。今回は、読解力を高めるための3つの柱のうち、まず**「語彙を増やす」**という点に焦点を当てて、その具体的な方法と効果について深く掘り下げていきたいと思います。


1. 語彙獲得の始まり:体験と読み聞かせの力

言葉の獲得は生まれてすぐに始まっています。幼児期は、遊びや様々な体験を通して言葉を学んでいきます。

例えば、美味しいものを食べた時、お父さんやお母さんが「美味しいね」と言うことで、「美味しい」という言葉と感覚を結びつけます。車が通れば「ブーブー」、犬を見れば「ワンワン」と、具体的な事物や音、体験が言葉と結びついていきます。そして、「ワンワンは犬っていうんだよ」と教わることで、一つひとつの言葉を獲得していくのが幼児期です。

しかし、体験だけで得られる語彙には限界があります。そこで大きな力を発揮するのが**「読書」**です。

なぜ絵本の読み聞かせが大切なのか?

幼児期に絵本の読み聞かせが良いとされるのは、語彙獲得において非常に効果的だからです。YouTubeなどの動画を流しっぱなしにするだけでは、なかなか言葉は定着しません。なぜなら、動画のスピードは速く、子どもが映像と音声を結びつけて言葉を一つずつ認識するのが難しいからです。

考えてみてください。私たちが英語を学ぶとき、基礎がない状態でいきなり英語の映画やドラマを見ても、ストーリーはなんとなく分かっても、言葉自体を一つずつ獲得するのは至難の業です。それと同じことが幼児期にも起こります。

絵本の読み聞かせでは、おうちの方が絵を指さしながら、子どものペースに合わせてゆっくりと話を進めます。この丁寧なやり取りの中で、「これは何ていうの?」「これはね、〇〇っていうんだよ」と、一つひとつの言葉を確かめながら学ぶことで、子どもたちは確実に語彙を増やしていくのです。

文字が読めるようになってからの読書

文字が読めるようになると、語彙を獲得するチャンスはさらに広がります。おうちの方がいなくても、子どもは一人で絵本の絵と文字情報を結びつけ、新しい言葉を吸収していきます。また、文章に登場する人物の感情を、自分が体験した感情と重ね合わせたり、関連付けたりしながら読むことで、感情を表す語彙も豊かになります。

読書の素晴らしい点は、自分が体験していないことも「追体験」できることです。物語の中で登場人物が経験する出来事や感情を追体験することで、その文脈の中での言葉の意味を深く理解し、新たな語彙として獲得できるのです。


2. 「抽象語」の獲得:読解力の壁を超える

語彙力を上げていく上で、一つの大きな壁となるのが**「抽象語の獲得」**です。抽象語とは、具体的な事物ではなく、概念や状態を表す言葉のことです。対義語は「具体語」ですね。

抽象的な思考は、実は幼児の頃から始まっています。 例えば、「黄色い蝶々が1匹、白い蝶々が1匹、青い蝶々が1匹いる。全部で蝶々は何匹?」と聞かれたとき、子どもは色や形の違いを超えて、これらをすべて**「蝶々」という一つの概念に統合し、「3匹」と答えることができます。さらに、「蝶々が1匹、バッタが1匹、カブトムシが1匹いる。昆虫は何匹?」と聞かれれば、それらをすべて「昆虫」というより抽象度の高い概念**に統合して答えることができます。

このように、子どもたちは日々の会話や体験を通して、無意識のうちに抽象的な思考を繰り返しながら語彙を獲得しています。

「10歳の壁」と「具体と抽象の往来」

しかし、小学校中学年(約10歳頃)になると、学習内容の抽象度がぐっと高まるため、「10歳の壁」とも言われる現象が起こることがあります。例えば、算数で「平行」という概念を学びます。実際にどこまで行っても交わらない2本の直線を引くことで「平行」という概念を理解し、同時に身の回りにある平行なもの(教室の窓枠、机の辺など)を探す活動をします。これは、**「平行」という抽象的な概念を獲得すると同時に、具体的なものを通してその概念を実感する「具体と抽象の往来」**を行っているのです。

語彙の獲得においても、この「具体と抽象の往来」が非常に大切になります。さらに、小学校4年生頃からは、抽象語と別の抽象語を関連付けて考える思考も増えてきます。例えば、「平行」という概念と「角が4つある直線で囲まれた図形(四角形)」という概念を関連付けて、「対応する辺が平行な四角形を平行四辺形と呼ぶ」といった、概念的な操作を行うようになります。

このように、具体と抽象を行き来すること、そして抽象語同士の関連を考えることで、語彙力は飛躍的に伸びていきます。

具体例で抽象語を「自分ごと」にする

例えば、「妥協」という抽象度の高い言葉を理解するには、具体的な体験やたとえ話が必要です。 「妥協とは、意見が対立した時、お互いが歩み寄って合意点を見つけることだよ」と説明した上で、お子さんの身近な例に置き換えてみましょう。

「晩ご飯、お父さんはカレーがいいって言っているね。でも、お母さんは魚にしたいみたい。意見が違うね。 そこで、お父さんが『じゃあ、今日は魚にする代わりに、明日は必ずカレーにしてくれる?』と言いました。お母さんも『分かったわ、それならいいよ』と同意しました。 このように、お互いが完全に自分の思い通りにならなくても、譲り合って真ん中くらいのところで決めることを『妥協』と言うんだ。

このように具体例を通して語ることで、「妥協」という言葉が、子どもたちの中で具体的なイメージとして深く刻み込まれます。


3. AIを活用した語彙力アップ術:類義語・対義語をマスターする

語彙力を上げる上で、非常に効果的なのが**「類義語(似た意味の言葉)」「対義語(反対の意味の言葉)」**を一緒に学ぶ習慣をつけることです。ここで、AIが強力な助っ人になります。

AIで類義語を探す

例えば、先ほどの「妥協」という言葉について、AIにプロンプトで「妥協の類義語を簡単な説明とともに教えてください」と打ち込んでみましょう。すると、AIはすぐに「歩み寄る」「折り合いをつける」「折衷案」「和解」といった類義語を提示してくれます。

辞書を引くよりも圧倒的に短い時間で、一つの言葉から多くの関連語彙を同時に学ぶことができます。もちろん、辞書を引くことも有効な学習法ですが、AIはより効率的な語彙獲得を可能にします。

AIで対義語を探す

同様に、AIに「妥協の対義語は何ですか?」と尋ねてみましょう。AIは「追求」「決裂」「固執」といった言葉を提示してくれるはずです。

このように、類義語と対義語をセットで学ぶことで、一つの言葉が持つ意味の広がりと奥行きを理解し、語彙数を飛躍的に増やすことができます。

社説の音読とAI活用で読解力アップ

語彙獲得には、ある程度抽象度の高い論理的な文章を読み慣れることも大切です。そこでおすすめしたいのが、新聞の社説です。

社説は、分量的にも読み切りやすく、抽象度の高い語彙が多く使われています。お子さんが読む際には、声に出して音読することをおすすめします。読解力がある人は、文章を読む際の眼球の動きが比較的安定しているのに対し、読解力のない人は同じ行を行ったり来たりする傾向があるという研究結果があります。音読は、この目の動きを鍛え、初見の文章をスムーズに読み進める力を養うのに役立ちます。

社説を音読する中で分からない言葉が出てきたら、AIを使ってすぐに調べてみましょう。そして、類義語や対義語も同時に学ぶ。このサイクルを習慣化することで、語彙力は着実に向上します。

さらに、AIにはこんな活用法もあります。例えば、「妥協という言葉を使った論理的な文章を400字程度で書いてください」とプロンプトで打ち込めば、AIはすぐに論理的な文章を作成してくれます。その文章を読み解くことで、抽象語が実際にどのように使われているかを学び、さらに読解力を高めることができるでしょう。


学校教育と家庭学習の連携:具体と抽象の往来

学校の授業では、この「具体と抽象の往来」を意識して組み立てられています。例えば、小学5年生の社会科で学ぶ「業務の効率化」という抽象概念。これを理解するために、授業では次のような具体的な事例をたくさん集めます。

  • 複数の人がシフトを組んで業務を行うこと。
  • 人ではなく機械を使って作業スピードを上げること。
  • 生産工程を何度も見直すこと。

これらの具体的な事例を通して、「短い時間でより多くのものを作る」ことが「効率化」という概念であると理解します。そして、次に「効率化は他にどういうところで行われているだろう?」と問いかけ、子どもたちがまた新たな具体的な事例を探しに行く。

このように、授業は単なる暗記ではなく、社会で行われている抽象的な概念を具体的な事例を通して獲得し、思考力を上げていく営みです。ご家庭での会話も、この「具体と抽象」を意識することで、学校の学びと相乗効果を生み出すことができます。

今回は、読解力を上げるための第一歩として「語彙を増やす方法」に焦点を当ててお伝えしました。次回は、読解力を上げるための2つ目の柱である「文章を速く読むトレーニング」について、具体的な方法を解説していきたいと思います。

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