演劇を通して表現力をつける方法

学生時代に演劇サークルに所属していました。演劇に限りませんが、自分を表現することって本当に「楽しい」ですよね。この「楽しい」という感情は言葉の力を伸ばす上でとても大切なことだと思っています。


演劇と国語とを関連させる

小学校のカリキュラムには、「総合的な学習の時間」という、子どもたちが主体的にテーマを探究する時間があります。この時間に演劇をテーマに探究活動をした年がありました。子どもたちは、演劇という表現手段を使って、自分たちで「劇で何を伝えたいのか?」という問いをもとに話し合いながら探究を深めていきます。演劇をすることが決まり、何が伝えたいかも決まったら、次に取り組むのは「台本づくり」です。台本づくりを子どもに任せると大人にない面白い発想がたくさん詰まった台本が生まれます。

作家の時間で台本を作る

この台本作りに、以前ブログでお伝えした「作家の時間」を取り入れます。まず、みんなでテーマについて話し合い、その後、一人ひとりが自分の考えるストーリーやセリフ、登場人物のアイデアを自由に書き出していくのです。

  • 「この場面は、こういうセリフにしたい!」
  • 「この登場人物は、もっとこんな性格にしたい!」
  • 「こんなユニークなストーリーはどうだろう?」

子どもたちの個性と想像力が爆発し、ユニークで創造性あふれる台本が次々と生まれてきます。

これらの台本をみんなで読み合い、意見を交換する時間は、とても貴重です。友達が一生懸命作った台本を読むことで、「読む力」が養われるのはもちろんのこと、他者の考えや物語に触れることで、共感力や表現力が育まれます。

AIを最大限に活用した台本づくり

「たくさんの台本をどうやってまとめるの?」

そう思われるかもしれません。そこで、今、私はAIを積極的に活用しています。

子どもたちのアイデアをすべて集約するのは、非常に労力のかかる作業です。そこで、子どもたちが書いた台本やアイデアをAIにプロンプトとして入力すると、AIがそれらをうまく組み合わせて、台本の「たたき台」を作ってくれるのです。

  • セリフの調整: 複数の台本に書かれたセリフを、物語の進行に合わせて自然な会話に整える。
  • ト書きの作成: 登場人物の動きや表情、場面の状況など、詳細な「ト書き」をAIが提案してくれる。
  • ストーリー構成の補助: 複数のアイデアを基に、より論理的で魅力的なストーリー構成をAIが提案する。

もちろん、AIが作った台本が完成形ではありません。この「たたき台」を基に、子どもたちがさらに話し合い、修正を重ねることで、自分たちの想いが詰まったオリジナルの台本が完成します。AIは、あくまで子どもたちの創造性を引き出し、実現をサポートする頼もしい存在なのです。


表現の壁を壊す「インプロゲーム」

台本が完成したら、いよいよ劇の練習が始まります。

しかし、多くの子どもたちは、人前で表現することに恥ずかしさを感じたり、自分の感情をうまく表現できなかったりします。そこで、私が練習の前に必ず取り入れているのが「インプロゲーム(即興演劇)」です。

インプロゲームは、台本を使わず、瞬時に状況を判断し、言葉や動きで表現する遊びです。

インプロゲームがもたらす教育効果

インプロゲームは、以下のような点で子どもたちの力を飛躍的に伸ばします。

  • 瞬発力と思考力: 瞬時に状況を判断し、言葉や行動で反応する必要があるため、思考力と瞬発力が鍛えられます。
  • コミュニケーション能力: 相手の言葉や動きに注意を払い、即興で応えることで、話す力と聞く力が同時に養われます。
  • 表現の楽しさと安心感: 即興なので、上手いも下手もありません。みんなでたくさん笑い合いながら、自分の個性をありのまま表現する楽しさを味わえます。
  • 心の解放: 演劇の練習は「失敗しても大丈夫」という安心・安全な場であることが何よりも重要です。インプロゲームは、その場の雰囲気を和ませ、自分を表現することに対する心の壁を壊し、心が解放されていく感覚を子どもたちに与えます。

インプロゲームは、子どもたちが演劇を「楽しい!」と感じ、もっとやってみたいと思うための最高の導入です。インプロゲームの具体的なアイデアは、インプロゲームの一覧 – 特定非営利活動法人まねきねこのようなウェブサイトでたくさん紹介されていますので、ぜひご家庭でも試してみてください。

演劇が育む「非認知能力」と多様な才能

演劇の魅力は、言葉の力だけでなく、今後のAI時代にますます重要になると言われている「非認知能力」を育む点にもあります。

主体性と協調性の両立

子どもたちは「もっと良い劇にしたい」という強い思いを持つと、教師が何も言わなくても、自分たちで話し合い、改善を始めます。

  • 「この場面、もっと声を出したほうが伝わるよ!」
  • 「セリフの言い方を変えてみない?」
  • 「観客席に向かって話した方がいいんじゃない?」

このように、仲間と協力しながら、より良いものを目指すプロセスを通して、子どもたちは主体性と協調性の両方を身につけていきます。

多様な個性が輝く場

演劇は、テストの点数では測れない、子どもたちの様々な才能が輝く舞台です。

  • 歌やダンス: 劇中に歌やダンスを取り入れることで、歌が得意な子、ダンスが好きな子が主役として輝きます。
  • 道具や小道具: 劇の世界観を作る大道具や小道具は、図工や工作が得意な子の腕の見せ所です。
  • 照明や音響: 舞台の雰囲気を演出する照明や音響は、機械いじりが好きな子や、繊細な感覚を持つ子の才能が発揮されます。

演劇は、「みんなが同じことをする」のではなく、「それぞれの個性を持ち寄って、一つのものを作り上げる」活動です。子どもたちは、自分とは異なる才能を持った仲間を認め、尊敬する心を育んでいきます。


家庭でできること

大切なのは「演劇という行為」そのものではなく、その背景にある「言葉の力」を育むためのエッセンスを、日常に取り入れることです。そのためには小説や物語を読んだ後、お子さんと感想を話し合う読書会をおすすめします。その際、単なるあらすじだけでなく、次のような一歩踏み込んだ会話をしてみましょう。

  • ト書きを想像する: 「このセリフ、どんな表情で言っていたと思う?」「この場面、どんな音が聞こえてきそう?」といった問いかけをすることで、お子さんは情景描写や登場人物の感情を深く読み解く力を身につけます。
  • 意見を交換する: お子さんが読んだ本について、親子で感想を言い合う時間を設けてみてください。お互いの解釈や感じ方の違いを知ることは、多様な価値観に触れる貴重な機会となります。

AIが発展し、知識の獲得が容易になった現代だからこそ、主体的に考え、協調性を持ち、自分を表現する「非認知能力」が、ますます重要になってきます。演劇は、子どもたちが楽しみながら、それらの力を総合的に育むことができる教育活動です。

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