「読書会」が育む力:本は人生のパートナー

子どもたちに読書を好きになって欲しいという思いをもって日々実践を重ねています。その理由の1つとして、読書が子どもたちの人生を支えるパートナーになって欲しいという願いがあるからです。

私自身、これまで人生で多くの困難や辛い経験がありましたが、その際に私を支えてくれたのは、身近な家族や友人の言葉でした。そして、もう一つ、私にとって大きな支えとなってくれたのが読書でした。本の中の言葉は、私が歩んできた道と同じような道を先に通ってきた先人たちがいることを教えてくれました。孤独な気持ちが和らぎ、彼らの言葉に励まされ、前に進む勇気をもらいました。

だからこそ、私は子どもたちに、読書は単なる読解力を身に付ける方法や受験のテクニックとしてではなく、人生を共に歩むかけがえのないパートナーになることを知ってほしいと願っています。そして、そのための実践として、国語の授業で「読書会」を取り入れています。


「読書会」とはどのようなもの?

皆さんが子どもの頃に受けてきた国語の授業は、教科書に載っている物語文を、先生の問いかけに答えながら場面ごとに読み進めていく、いわゆる「精読」が中心だったのではないでしょうか。

まず、物語全体をざっと読んで感想を書き、その後、一場面ずつ丁寧に読み進めていく。先生の「このとき、主人公はどう思っていたでしょう?」という発問に対して、みんなで答えを探していく。この方法には、文章に書かれたことを正確に読み取る力を養うという大きな利点があります。しかし、子どもたちにとっては、先生に「やらされている」という感覚が生まれやすく、読書や文章を読むことへの楽しさを見失ってしまうという側面もありました。

読書会は、この従来の授業とは少し違ったアプローチを取ります。教科書に載っている物語文を使って読書会を行う実践もあります。その場合、まず子どもたちは物語全体を自分で読み、その中で疑問に思ったことや、みんなと話してみたいことをメモします。そして、4人程度の少人数グループで集まり、お互いの読みを共有し、語り合うのです。


読書会がもたらす「3つのメリット」と「3つのハードル」

この読書会は、子どもたちの読書に対する意識を大きく変えてくれます。しかし、実践にはいくつかの課題も存在します。

読書会の3つのメリット

  1. 「やらされている感」からの解放: 先生に「どこを読みなさい」と指示されるのではなく、自分の心に残った部分や疑問を自由に話せるため、「やらされている」という感覚が薄れ、より主体的な学習となります。自分のペースで読みを深めていくことができるのが大きな魅力です。
  2. 読む意欲の向上: 後で友達と話し合う時間が待っているので、「しっかり読んでおかなきゃ」という意欲が自然と高まります。ただ読むだけでなく、友達に自分の考えを伝えなければならない、という意識が、読解力を高めるモチベーションになります。
  3. 圧倒的な「読む量」の確保: 教科書の物語文はせいぜい10ページ程度ですが、読書会では市販されている本を使います。100ページを超える本を1冊読み切る体験は、普段本に親しんでいない子どもたちにとって、非常に大きな達成感となります。読書量と読解力には高い相関関係があると言われていますから、この「量を読む」経験は、子どもの国語力を飛躍的に向上させると考えています。

読書会の3つのハードル

読書会を実践する上で、教師はいくつかのハードルを乗り越えなければなりません。

  1. 本を揃える大変さ
    • 以前は、読書会を行うために、教師が図書館を駆け回り、50冊もの本を借りてはスーツケースで運ぶような大変な作業が必要でした。
    • 解決策: 最近は、学校に「電子図書」が導入されるケースが増え、このハードルは大幅に下がりました。電子図書であれば、同じ本をクラス全員が同時に読むことが可能になるからです。
  2. 長い本を読むことへの抵抗
    • 読書に慣れていない子どもにとって、1冊の本を読み切ることは簡単ではありません。
    • 解決策: 授業時間の一部を読書時間に充てるなど、読書する時間を確保する工夫が必要です。
  3. 読みが浅くなる可能性
    • 「精読」ではなく自力で読むため、「本当に深く読み取れているか?」という課題が残ります。かつて、研究授業を公開した際に教育委員会の講師から、「読みが深まっていない子どもがいる」と指摘されたこともありました。これは、教師にとっては厳しい指摘ですが、無視できない重要な課題です。
    • 解決策: 私は、この課題は1回の読書会で解決できるものではないと考えています。読書会という活動を何回も積み重ねていくことが大切です。最初の読書会では読みが浅かった子どもも、友達の深い読み方や、問いの立て方に触れることで、「次回はもっとしっかり読もう」という意識が芽生えます。また、友達の読み方を真似することで、自然と読む視点が磨かれていきます。

読書会が与える「3つの喜び」

読書会には、そうした学習効果を超えた、子どもたちの心に響く大きな喜びがあります。それは、本を通して、そして人を通して、自分自身や世界を深く知る喜びです。

1. 人を通して「本」を深く知る喜び

本について語り合うことで、子どもたちは同じ物語を読んでいても、人によって感じ方や捉え方が全く違うことに気づきます。これは、「多様な視点がある」ということを肌で感じる貴重な体験です。友達が話す「別の視点」に触れることで、「なるほど、そういう風にも読めるのか」と、自分の読みがさらに深まります。一人で読むだけでは気づかなかった、本の奥深さを知るきっかけになります。

2. 本を通して「人」を知る喜び

読書会では、本について語り合うことを通して、その本を読んだ人の考え方や人柄を知ることができます。友達がどんな部分に心を動かされ、どんなことを考えているのか。「この人はこんなに豊かな心を持っているんだ」と、本を通して人を知る喜びは、子どもたちの人間関係をより豊かにします。

3. 「自分が受け入れられている」と感じる喜び

読書会では、自分の考えを本を介して話すので、普段よりも気楽に自己開示ができます。自分の考えを友達が真剣に聞いてくれ、共感してくれたり、異なる視点から話してくれたりする体験は、子どもたちに「自分の意見や自分自身が、仲間から受け入れられている」という深い安心感を与えてくれます。この体験こそが、読書会最大の魅力です。

この楽しさを一度味わえば、子どもたちは次回の読書会に向けて、さらに本を深く読もう、自分の考えをしっかり持とうと、自ら意欲を高めるようになります。

読書会は、子どもたちが本と向き合う力、人と向き合う力を同時に育んでくれる、素晴らしい実践です。次回は、具体的な読書会の進め方について、さらに詳しくお話ししたいと思います。

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